空飛ぶ雑草

観た・行ってみた・食べてみたのログ置き場

2024年4月の見た・読んだ

はじめに

 しばらくお出かけ予定がないので、今月は引きこもって『あつ森』しながらエンタメ消費してた。気づけばかなりいろいろ見て読んでできてたので嬉しい。なので今月は中身大盛り。よかったー!ってホクホクしてるものもあれば、酷評してるのもあるよ。

映画

ザ・キッチン

 『サイバーパンク2077』マヂラブ人間として、あの世界の絶望と閉塞感と、そこから生じる隣人愛に通じるものがあったので楽しめた。ただこれ単体で面白い映画かと問われると、首を縦には振れない。設定の割に話が超地味なので、近未来ディストピアに住む一般人に関心を持てればまぁ面白いかもという程度。ネットで「このストーリーなら別に2040年のロンドンである必要なくない?」っていうコメントを見たけどその通りだと思った。

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ダムゼル/運命を拓きし者

 「即死攻撃が主人公補正で当たらないだと?」「ドラゴン喋ってんと早よ殺ってまえよ」「そんな都合いい生物おる?」「教養ある姫ならまず衛生状態を疑えよ」「ファンタジー設定のくせにThank God! って言うたな」とかツッコんだら負け。頭空っぽにして、ラノベ『政略結婚したら竜の生贄にされかけたけど生き残った件 〜SASUKEやらされるなんて聞いてない〜』だと思って見て。概要欄に書かれてる以上のものは無かったけど、エンタメとして十分おもしろかった。『ハウス・オブ・カード』見たことある人なら、この王家は信用したらアカンとすぐに気づくはず。その女王ぐらい顔に迫力があって、かつドラゴンとタイマン張ってくれるティーンエイジャーって、そりゃミリー・ボビー・ブラウンしかおらんわな。爆発を背景に歩いてくるのも似合いすぎてウケた。

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Marry me

 ドロドロ韓国ドラマ(後述)を見まくってる合間にお口直しで見てみたら、あまりにもピュアで優しい世界に爆発四散した。無茶苦茶な話をすべて「J.Lo だから大丈夫です」でねじ伏せるの荒業すぎて爆笑。醜い争いとか全くなくて、中年の再婚だからこそ互いに丁寧に擦り合わせる過程とか超微笑ましかった。純粋なフェアリーテールとして楽しめたよ。

youtu.be

7月22日

 ノルウェーの連続テロ事件を再現した映画。恥ずかしながらこの事件について無知だったので、生々しい恐怖を味わいながら見た。事件現場だけにフォーカスしてアクション映画にしてしまうのではなくて、裁判の決着まできちんと描いているところがすごく良かった。だからこそ、ぐしゃぐしゃに壊されたものは人も国も元には戻らないんだなといっそう気づかされた。

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ナイアド 〜その決意は海を越える〜

 一人のアスリートの伝記かと思ってたけど、チームの物語だった。当たり前だけど一人のレジェンドの裏にはそれを支える人々がいるんだよな。みんな素晴らしかったけど、特にジョディ・フォスター最高!年齢を自分の限界にしない勇気、互いに支えあうことの大切さ・難しさ・ありがたさ、心の傷を乗り越える強さ。年取った時にもう一回見て元気出したいぐらい気に入った。

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ドラマ

三体

 原作は『黒暗森林』まで読破して、テンセント版ドラマを途中まで見た立場から言わせてもらうと、「めっちゃ面白かったけど、全く別物ですね?」という感想。原作未履修勢の方が純粋に楽しめる説あると思う。画が豪華で、字だけではさっぱりだった物理・宇宙の話が視覚化されて格段に分かりやすかった。文革のシーンも(当然だけど)テンセント版ではボヤかされてたので、こちらの方が生々しい感情を見て取れた。あとはさすがNetflixの課金力(主にVFXとキャスティング)。トモコがきちんと日系俳優だったのも個人的には嬉しかった。

 イマイチだったのは、良くも悪くも欧米向けの科学者アベンジャーズに成り果ててしまったところ。原作は一人の中国人科学者のRPGというか、偶然の巻き込まれからパン屑のようなヒントをかき集めて謎を解き、そのバトンが数世紀単位で受け継がれていく、という読者の脳を押し広げてくれるような展開が面白かった。それを「主要キャラをツギハギして新しく作り直しました。舞台は現代のオックスフォード、天才科学者同級生5人組の話です!氏名・国籍・年齢・性別どれも原型とどめてません!」ってされると、うーん同じ作品ではないよな?原作は2000年代の中国が舞台で登場人物もオッサンばっかりなので、そのままドラマ化するとテンセント版と差別化できないし何より全世界向けとしてはウケが悪い、というのは分かる。実際、時代設定を現代に移し、登場人物のダイバーシティを向上したからこそ咀嚼しやすい話にはなってた。でもテンセント版の丁寧な描き方(展開が遅いともいう)と比べると、ここまで見やすいように・分かりやすいように改変してまでドラマ化する意味ある?と思ってしまう。シーズン2未定らしいけど、来たらやいやい言いながらもたぶん見る。なお、サイコロステーキ先輩みたいなシーンがあるので、R18Gが大丈夫な人のみどうぞ。

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リディア・ポエットの法律

 面白かった!実話に基づいてるけど、ヒューマンドラマというより『エノーラ・ホームズの事件簿』のようなミステリー仕立てなので、深く考えずとも楽しめた。各話完結なのも助かる。一方で、リディアは弁護士より探偵として飯食ってく方が手っ取り早いのでは?という気持ちは拭えなかった。それはそれとして、リディアの言動には現代にも通じるものがあり、特に「(当たり前になりすぎて)女性の尊厳について議論することがバカバカしいと思われる時代が来る」というのは唸った。まだ来てないんだよな~!物語も悔しい形で終わってるけど続くのかな。シーズン2に期待してる。私はヤコポよりアンドレア派。久々にイタリア語聞いたけどやっぱり世界一好きな音だわ。トリノは行ったことないけど、綺麗な景色に憧れて訪れてみたくなった。なお、ほぼ毎話濡れ場があるので公共交通機関で見るのはちょっと辛かった。

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クイーンメーカー

 ただの選挙ドラマかと思ったら、財閥との闘いと禊の物語だった。三話ぐらいまでドン引きしてたけど、過ちから学んだ人 vs 変われなかった悪役の構図に持ち込むのは面白かった。以前見た台湾の『WAVE MAKERS』よりは男社会で堅苦しくて、日本に近いものを感じた。主人公がきちっと代償を払うのはいい終わり方だ。政治ドラマは各国違いが出てて面白い。

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ザ・グローリー 〜輝かしき復讐〜

 推しがずいぶん前にハマっていた復讐ドラマ。復讐8割、反撃されるの1割、ロマンス1割ぐらいでスカッとした。やはりリベンジものを作らせたら韓国が最強。「被害者に非があるような描き方は絶対しない」という意志のもと制作されているのが素晴らしい。実際、ヘアアイロンで腕を焼かれる等の校内暴力(というかもはや拷問)をしていたクズ達が片っ端から共倒れ、葬られていく様はつっかえるもの無しで見れた。清涼飲料水のようなキャラのおかげで適度に緊張が緩和されるのも良かったし、それをただのロマンス相手にしないで登場させる意味をしっかり持たせるところもさすが。いろいろメッセージはあったけど、中でも「子は親を選べない。血のつながりに囚われることはない。」というのは儒教社会には珍しいなと思って感心した。ドヨンさんが最後まで子どもを大事にできる人で本当に良かった。

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セレブリティ

 ハイスピード成り上がりインフルエンサー物語+『花男』。セレブごっこ大変そうだなぁという気持ちで流し見した。最後のオチまで「女の敵は女」に帰結するのは安直かつ陳腐でがっかり。アンチコメにミソジニー野郎が湧いてないところはリアリティがないし、「SNSが全てじゃない、目を覚まして!」みたいなメッセージ性もないし、全体的に浅かった印象。でも『セリング・サンセット』とかキャットファイトものが好きなら楽しめる。

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タイニー・プリティ・シングス

 バレエ業界はクソってことでいい?申し訳ないけどそうとしか思えないひどい内容だった。バレエ業界の人怒っていいよ。顔が近づいたら絶対キスせなアカンのか?ダチョウ俱楽部か?パワハラとセクハラ、売春と枕営業。そんな大事な話は置いといてとりあえずセックスする人たち。それも未成年と!おかげで穴兄弟と竿姉妹ばっかり。アホの大人と猿ガキしかおらん。サスペンスを期待してたらポルノだった。少なくともこれを見たまともな大人は、自分の子供をバレエ学校に入れようと思わない。思わせぶりな終わり方してるけど、中身がカスだったので当然シーズン2もない。この程度で続編作る気だった制作陣、正気かよ。

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動物農場

 先月読んだ『1984』の作者、オーウェルがそれより前に書いていた本。こちらも絶賛されてるので読んでみたら、やっぱり面白かった。タイトル通り動物が主人公で、人間に対して革命を起こす寓話なわけだけど、『1984』より圧倒的に読みやすいのに中身は変わらずゴリゴリに政治的啓蒙が含まれていた。「蜂起はあくまで始まり」「冷笑に伏すは肯定と同じ」「無知は都合よく搾取される」「市民が政府を監視することの重要性と権力の暴走」等々、身につまされること盛りだくさん。生活すること=政治的であることを忘れず関心を持って、おかしなことにはちゃんと声上げないとダメだな。……と意識を改めた矢先、日本で共同親権衆院可決してて白眼剥いた。声を上げてもそれがねじ伏せられる世界にはどう対抗したらいいんだろうね。

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フィフティ・ピープル

 推しブロガーが推してたので買った。連作短編小説とはいえ、長めの小説は久々だから集中して読めるか心配だな~とかうだうだ言いながら買ったくせに、結局最後までイッキ読みした。この本には特定の主人公はおらず、大学病院とそのコミュニティで暮らす50人それぞれの生活のほんの一部が、良いことも悪いこともモンタージュ形式で進んでいく。中には深い絆で結ばれた人もいれば、背景に映り込む程度の人もいる。ページをめくりながらこれ誰だっけ?あぁこの話の人か!と思い出す作業が新鮮で、すごく楽しかった。こういうのは本ならではの体験。「入口にある風船のような作家でありたい」と語る作者の文体は非常に軽やかで、それでいてしっかり50人分の足跡を私の中に残してくれた。今の私にはイ・ソラが一番共感できたけど、年齢と共に響いてくるキャラクターが変わるだろうから、数年後の自分が誰に共感するか気になる。後々の人生でも読み返したいと思う、貴重な一冊になった。

www.akishobo.com

僕の狂ったフェミ彼女

 作者は女性だけど、その研究の甲斐あって「一般男性」の解像度が高すぎた。主人公のミソジニー・セクシズム・ルッキズムに基づく言動は(女性にとっては最悪なことに)あるあるのオンパレードで、都度はらわたが煮えくり返った。理解してもらえるかは別として、確かにこれは男性に読んでほしい。一方で、対話を諦めないことを我々にも薦めているように感じた。私は不快なことを言われるとすぐにバターンと心の扉を閉じて断絶してしまうタイプなので、きちんと理性的に対応する彼女は偉いなぁと素直に憧れた。「なんやこいつ去んでまえムキーッ!」となるのは簡単だけど(もちろん瞬間最大火力で怒るのもこれはこれで訓練がいる)、どちらが社会にとって建設的かといえば当然彼女のやり方。実際、主人公の男友達の妻たちに影響を与えたし、主人公にも理解の萌芽を植え付けることはできた。もっとも、本作はファンタジーではないので全て上手くはいかないけれど。

 私は非婚主義どころか今や恋愛もしなくなった人間だけど、「フェミニストの恋愛は難しい」「相手がこちらに追いついてきてくれるしかない」という現実は経験がある。本作は残念ながら解がなく辛いまま終わったけど、同じ作者の最新作ではこの命題に対する一種の解答としてポリアモリーを描いているらしいので、ちょっと気になってる。

www.eastpress.co.jp

 インタビューもめちゃくちゃよかったので、こちらだけでもぜひ読んでほしい!

book.asahi.com

私は自分のパイを求めるだけであって人類を救いにきたわけじゃない

 四十歳を過ぎてフェミニズムに目覚めた作者のエッセイ(ほぼ回顧録)。女こそ女に目くじらを立てがちだけど女同士で足引っ張るのは止めよう、というのは珍しい指摘でハッとさせられた。確かに「それ、相手が男だったら指摘してる?」と自問することは大事だ。同じエネルギー、本当にぶっ壊さなきゃいけないものに使わないともったいない。(もちろん差別主義者は性別問わず怒っていこう。)他にも仕事を頑張りたい人こそ陥りがちな差別への落とし穴が実体験として語られていて、分かるな〜と共感できるものもあれば、フリーランスマーケティングの話など新たな学びもあった。社会人から始めるフェミニズム入門書としてオススメ。

honto.jp

ガザとは何か パレスチナを知るための緊急講義

 今月読んでよかった本ぶっちぎりNo.1。私みたいに「ニュースで流れてくるけど飛ばしがち」「結局誰が悪いの?」レベルから知ってみようと思ったとき最初の一冊として最適。単発講義を文字起こししたものなので、口語体でよくまとまっていて超読みやすい。著者が文学者だからかもしれないけれど、古の歴史まで深入りするのではなく、今起きていることに焦点を絞りつつ、きちんとストーリー立てて説明してくれるのですごく理解しやすい。一番重く受け止めたのはパレスチナ人のスピーチにあった「私たちはいまだに、世界の前に立って、自分たちが犠牲者であり、テロリストではないということを(中略)証明しなければならない」という部分。まさしく「私は人間であることが恥ずかしい」(プリーモ・レーヴィ)という気持ちになった。読んでからニュースを漁って、イスラエルの広報・外交戦略の狡猾さにようやく気付いて舌を巻き、一方でアメリカの有名大学をはじめ世界各国で行われているデモの意味をやっと理解できて胸を痛めた。『動物農場』に出てくる、豚に都合よく利用されるバカな犬や馬と同じだったんだな、私は。

www.daiwashobo.co.jp

おわりに

 韓国フェミニズム文学は同じアジア人として葛藤に共感できるところが多く、現代的な翻訳のおかげで比較的読みやすいので、大変遅ればせながらハマった。パイオニアである『キム・ジヨン』も読みたいけれどかなり暗い話というのは知ってるので、自分のエネルギーがあるときに手に取ってみようと思って置いている。

 韓国の本読んでたら韓国に興味が出てきたので、今月は久しぶりに韓流ドラマを貪った。韓流は日本語吹替が多いから耳だけでも追えるので、作業用BGVにちょうどいい。「シーズン2に続く!」みたいな浅ましい終わり方をせず、でかい風呂敷をきちんと畳んでエピローグまで長尺で描いてくれるところも良い。毎話ほぼ1時間強あるのに三話ぐらいまではプロローグ枠、財閥が敵になりがち、殺人ですべてを解決しがち、人が車に勢いよく轢かれがち……等々の特徴も含めて面白い。声優さんの韓流独特の喋り方も慣れるとツボ。ところで2018年制作のドラマも見ようとしたら、いちゃもんつけて罵声をあげる金持ち男と、反論もせず静かに泣く貧乏乙女の間でラブロマンスが始まったのにドン引きして、初回でリタイアした。ジェンダー意識に大きな乖離が感じられたので、直近2~3年ぐらいの作品しか見れないかもしれない。

 そんなわけで、韓国へ興味がわいたので韓国への旅行を決めた。まだ少し先だし、フライトは六時間半ぐらいかかるのにソウル1泊しかしない超弾丸旅行だけど、今から楽しみ~!